タイ人向けインタビュー

農村の公立校で英語教師をするジヤップ先生の日常は昭和的

タイの公立校、特に小学校はだいたい寺院に併設されている。ジヤップ先生のいるタイ東北部ナコンラチャシマー県の農村の学校もまた村の寺の敷地内にあった。ここは日本でいう小学校から中学校までで、高校は郡役場のほうに行く。それまでの9年間、ジヤップ先生は子どもたちを見守り続ける。昔の日本もきっとこうだったろうという教員生活がいまだそこにあった。

休みなんかない農村の教員生活

ジヤップ先生は出身の村にある小学校で英語教師として生活している。つまり、ジヤップ先生もまたこの小学校出身だ。

これは必ずしも珍しいことではない。というのは、村人はみんなここに通っていたからだ。今でこそちょっと遠くの私立校に通う人もいるが、10年ちょっとまえまでそもそも私立がなかったので、就学年齢になればここに通うしか選択肢がなかった。

筆者は10年ほどまえ、この村の忘年会にて日本では見ない場面に出くわした。村民で金を出しあって、この小学校がある寺院の広場で大パーティーが開催され、メインイベントとして歴代教員に花束贈呈をしていたのだ。これがよぼよぼの老人になった先生から、30代くらいの現役教師まで呼ばれたのだが、親世代とその子ども世代が同じ教師に世話になっていたりするので、親子で先生に挨拶をしていたり。

ジヤップ先生をインタビューしたのは10月のことだ。タイは2期制なので10月はちょうど中間休みになる。ジヤップ先生はその間も毎日学校に来て、同時に行くあてのない子どもも自然と集まってきて、学校で過ごすことになる。親としては先生が預かってくれているようなもので安心ではあろう。よほど用事がなければ土日も学校にくるので、先生も児童もみな毎日学校にいることになる。

というわけで、先の親子で同じ先生にお世話になったというのは、ただ授業を受け持ってくれたというだけでなく、それこそ親よりも長い時間を過ごしていた人もいるくらい。今の日本ではここまで子どもと共に過ごす教員はいないのではないだろうか。

休みがないけれども超人気の就職先

これだけ毎日学校で過ごしているとはいえ残業代があるというわけでもなく、公務員の法令に従った給料が出るだけ。それでもこの職業は人気だ。

タイで教員になるには大学を出て、教員免許試験を受ける。その後、公立校であっても各学校の採用試験や面接を受ける必要がある。教員免許を取得しても受け入れ先がなければ教師になれないのは日本と同じだろうが、いずれにしても学校ごとに採用試験がある。

実はタイの公立校は学校や地域によって教育水準などが大きく異なる。そのため、有名な公立校というのもあって、やはりバンコクが高水準の傾向にある。あくまでも筆者の推測だが、こういう各学校で異なる採用基準もまたそれに影響しているのかもしれない。

とはいえ、教育水準がどうであれ、実はこういった田舎の学校は就職先として人気が高い。というのは、タイ人、特に地方の田舎出身者は地元をこよなく愛する人が多く、いつか地元に帰りたいと思っている。それでもある程度の年齢まで帰らないのは、やっぱり仕事がないからだ。しかし、教員であれば公務員であり、決して高くはないものの安定した収入が得られる。田舎なら物価も安いので、それで十分だ。

地元だから通勤時間は数十秒

田舎の学校は人気が高いし、それ故に空席がなかなか出ない。前述のように、親子で世話になるケースも珍しくないくらいで、新卒で採用されたとしたら、40年もそこに勤めることだってある。バンコクのように規模も大きくいないので採用数も少なく空きがなかなか出ないし、出ても競争率が異様に高い。地元の学校に空きがないので、とりあえずバンコクの公立校で教鞭をとっている教員も少なくないらしい。

これはジヤップ先生に限る話になるかもしれないが、365日ほぼ毎日学校にいるとはいっても、ジヤップ先生もまたこの村の出身であり、自宅は学校の目と鼻の先。バイクに跨れば数十秒で学校に着く。夫も働いているし、子どもももう学生で大きい。自身の家庭にかかる負担が少ないことも学校にすべてを傾けることができるひとつの理由だ。

日本でも戦前の教師というのは尊敬されるし、地元に密着した職業だったはずだ。ジヤップ先生の働き方はまさにそれで、もうお金儲けとかそんな次元にはいない。本当に教師でいることが人生であって、村の子どもたちを自分の子どものように思っている。児童もまたジヤップ先生を慕っている。人間性もまた優れているのだろう。だからこそ、競争率の高い地元の学校に採用されたに違いない。

なにもない田舎がいいと思う東北部の人の想い

バンコクも日本人にとっては過ごしやすい場所ではある。もちろん、タイ人にもバンコクのほうが好きだという農村出身者もいるし、そもそもバンコクが地元の人だってたくさんいる。

他方で、バンコクの喧噪を嫌がるタイ人も少なくない。東北の農村出身者は田舎に引っ込むことを望むのは、確かにジヤップ先生の村なども本当に静かで、風の音や鳥の声がいつも聞こえるほどなので、穏やかに暮らせるのは間違いないからだ。この環境が通常だった人からすれば確かにバンコクはうるさい。

とはいえ、バンコクで静かな暮らしができないのかというと、そうでもないと筆者は思う。たとえばスクムビット通りソイ39やトンローの裏手奥などはBTS沿線と比較して空も広いし、意外と静かだったりする。

それに、ディアライフが紹介する物件の中にも防音性が高い部屋がたくさんある。それこそレコーディングスタジオ並みに騒音をシャットアウトしてくれる部屋だってなくはない。「静寂性」にだけにクローズアップすれば、バンコクでも可能は可能だ。

▶動画はこちら